新潟地方裁判所糸魚川支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人鈴木淸五郞を懲役四月に処する。
被告人艸切一止、同西沢門明を各懲役三月に処する。
但し被告人三名に対し二年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人三名の連帶負担とする。
理由
罪となるべき事実
第一、被告人鈴木淸五郞は日本有機株式会社酒田工場の工員であつて、化学肥料製造工場の從業工員を以て組織されて居る全日本化学産業労働組合中央執行委員に就任して居るものであるところ、石灰窒素肥料の生産を業とする新潟縣西頸城郡靑海町大字靑海所在の電氣化学工業株式会社靑海工場が昭和二十三年四月頃から賃金値上問題に関して爭議状態に入るや、爭議労働組合側の應援のため同年五月二十二日前記靑海町に來たのであるが、同工場労働組合員から同工場内で爭議の激励演説を依賴されて應諾し、現に右工場中一部の工場が賠償工場でありその他は賠償対象から除外されては居るが賠償工場保全の必要と全工場が警備対象となつて居り、全工場が占領軍の管理下にあるため、所定のパスポートなくしては工場に入場することを禁ぜられて居る情を知りながら、右のパスポートは勿論管理担当者の許諾をも得ないで、
(一)同年五月二十四日右工場の從業員である被告人艸切一止の案内で、警備区域である同工場の電氣工作現場等に侵入し、
(二)同月二十六日同工場從業員である被告人西沢門明の案内で、警備区域である工場放送室迄侵入し、
第二、被告人艸切一止は前記靑海工場の從業員であるところ同工場労働組合員から被告人鈴木淸五郞の案内方を依賴されるや所定のパスポートなくしては同工場内に入場できない情を知りながら、前記第一の(一)所載のようにパスポートなくして被告人鈴木淸五郞を案内して同工場内に侵入するに至らせ。
第三、被告人西沢門明は前記工場の從業員であるところ同工場労働組合員から被告人鈴木淸五郞の案内方を依賴されるや、所定のパスポートなくしては同工場に入場できない情を知りながら前記第一の(二)所載のようにパスポートなくして被告人鈴木淸五郞を案内して同工場放送室に侵入するに至らせたものである。
証拠
司法警察官の被告人鈴木淸五郞、同艸切一止、同西沢門明に対する各聽取書。
司法警察官の沢田俊一、中山廉に対する各聽取書。葭原十一郞、渡〓鉄次、畑中実、長嶺栄、桑原好枝、下山秀雄、西山昇の各靑海町警察署長宛の始末書。
檢事の被告人鈴木淸五郞に対する聽取書。
檢事の被告人西沢門明に対する聽取書。
檢事の渡〓鉄次、八木裕次郞に対する各聽取書。
当公廷に於ける証人沢田俊一、同渡〓鉄次、同小竹昌二の各供述
辞護人上村〓、同牧野芳夫は被告人鈴木淸五郞は靑海工場の労働者側の爭議の應援に來たものであり、管理工場に有害な行爲をなすために工場に入つたのではない、又被告人鈴木淸五郞と被告人艸切一止、同西沢門明とは工場は違ふけれども組合は單一組織になつているので自分の勤めて居る工場に入場すると同一のものであり、又工場の使用権は労働者にもあるものである。憲法第二十八條には労働者の権利が保障されて居るし、労働関係調整法第六條、第七條には爭議行爲が規定されて居る、即ち本件工場に入場した行爲は正当な爭議行爲であるから労働組合法第一條第二項により刑法第三十五條の適用を受ける結果、犯罪の成立するものでない旨主張するけれども、その主張は判示と異る見解を開陳するものであるから採用しがたい。
適用法條
刑法第百三十條、第六十條(被告人鈴木淸五郞に対し同法第四十五條、第四十七條、第十條、適用)第二十五條刑事訴訟法(大正十一年法第七十五号)第二百三十七條第一項、第二百三十八條
(裁判官 增村文雄)